歯の豆知識
「歯くらいいいや」と思っていませんか?
【全世界で最も多い病気は歯周病である。地球上を見渡してもこの病気に冒されていない人間は数えるほどしかいない】
-ギネスブック2001、きこ書房-
恐ろしいことに歯周病の細菌が血液の中に入りこんで全身を流れていることがわかりました。
ひと昔前は歯槽膿漏と言われていましたが、現在は歯周病とか歯周疾患と言われています。字が意味するとおり、歯肉に初発して歯槽骨(歯を支える骨)、歯根膜(歯と歯槽骨をつなぐ結合繊維)を破壊していく病気です。
歯周病の初期症状は歯肉の発赤や、腫脹(赤く腫れること)ですが、痛みなどの自覚症状が少ないため気付かずに進行します。
歯と歯肉の結合部の炎症は、歯周ポケットを形成し、プラークが付着しやすくなります。
プラークコントロールが不良であると炎症は進行し、歯を支える骨が吸収され、痛みを伴う腫れや動揺がおこってきます。痛みがでたり、物が咬みにくくなったこの時期にやっと自覚する人が多いようです。
歯周病のほとんどはプラーク中の細菌が原因となっておこる炎症性疾患です。
そして歯周病が全身に悪影響を与えていることがわかってきました。
以前より、口腔清掃の不十分な寝たきり老人が誤嚥性肺炎など、呼吸器疾患を引き起こしやすいという報告がありました。最近では歯周病に罹患している場合、心筋梗塞などの心臓病になる危険性が増加することや、妊婦において早産の確率が高くなること、また糖尿病の患者の血糖値を上げるなどの報告があります。これは、プラーク中の細菌によって産生された毒素が炎症部から血液中に入りこんで血管壁を傷つけたり、妊婦の胎盤に影響を与えることによって引き起こされると考えられています。
病気には個人差もあり、また、遺伝的な要因も関係しますので、歯周病を治せばこれらの病気にかからないというわけではありませんが、大きな要因になっています。歯周病が全身に影響し、口腔だけの問題ではなくなってきたことも事実です。
誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)と歯周病 |
誤嚥性肺炎とは、本来気管に入ってはいけないものが気管に入り(誤嚥)、そのために生じた肺炎のことです。
健康な若い人の場合、異物が気管に入ったりすると激しく咳き込んでその異物を気管の外に出すことができます。しかし、高齢者や脳梗塞などにより咳反射が低下している人の場合は、異物を出すことができず、気管から気管支に入ってしまい、肺炎を引き起こすことがあります。特に脳血管障害を持つ高齢者の場合、寝ている間に少ずつ気道を経て、肺へ唾液が流れ込んでいきます。その際、歯周病菌も一緒にのみ込んでしまい歯周病菌の毒素が肺炎を引き起こします。 誤嚥予防の対策として、歯磨きや舌苔(舌の汚れ)を拭い落としたり、抗菌性洗口剤を用いて口腔内の菌量を減らす口腔ケアを行うことをお勧めします。 また、寝たきりで食べると誤嚥しやすいので、食事の時は30度~60度程度ベッドを起こすとよいでしょう。食べ物はサラサラした液体や細かく散るような刻み食よりも少し粘り気のあるゼリー状やペースト状のものの方が誤嚥しにくいようです。そして食事の時間は30分ぐらいとし、くたびれ果てないようにすることも必要です。 また胃液逆流を防ぐため、 食後30分~1時間はからだを起こしておきましょう。 それは、脳の障害によって咳反射と嚥下反射が鈍くなるからです。 咳反射とは、気管や肺に入った異物を、咳をすることにより体外に排出し、体を守る反射運動です。 嚥下反射とは、口の奥の方や喉の入り口が刺激されたときにいったん呼吸を止めて唾液や食物を食道の方に飲み込む反射運動です。 |
心臓と歯周病 |
歯周病があると循環器疾患に対するリスクが高くなります。
細菌が心臓に影響することは以前から知られていましたが、最近の研究から細菌の感染症である歯周病にかかって、心疾患に対するリスクが高くなることがわかってきました。 さらに、歯周病でない人に比べて、致命的な心臓発作を起こす危険がおよそ2倍にもなることが報告されています。 歯周病の細菌がどのように心臓に影響するかについてはさらに解明されなければなりませんが、細菌が炎症を起こしている歯肉から毛細血管を介して血中に入り、それが冠動脈の血管内壁に付着し、小さな塊となって血管をつまらせるのではないかと考えられています。 そして血の塊は、血流を妨害するだけでなく、心臓を正しく機能させるために必要な栄養と酸素の供給を制限してしまうことがあります。これは、 狭心症や心筋梗塞を引き起こす要因にもなります。 よく知られている心臓病予防(心臓病にかからないためにやってはいけないことなどの常識的なこと)に併せてお口の中を健康に保つことは心臓病予防への大きなステップです。 |
糖尿病と歯周病 |
実は糖尿病と歯周病は、持ちつ持たれつの迷惑この上ないパートナーなのです。
糖尿病の人は、健康な人に比べて 2.6倍 も歯周病に罹りやすいと言われています。 歯周病があると、糖尿病の血糖値のコントロールが難しくなり、更に糖尿病を悪化させることがあります。また、糖尿病があると身体を守るための機能(免疫機能)が低下して血管系がもろくなります。そして、口渇感を訴える人も多く、この影響を受けて口の中では歯周病を誘発する細菌の繁殖が盛んになり、歯周病が更にひどくなるという悪循環に陥ります。 最近では、歯周病の治療をしたら血糖値が下がった事例が報告されています。 つまり、歯周病をコントロールすることは、血糖値のコントロールにもつながるのです。 さて、唾液が泡になりやすい人はいませんか?「口角沫を飛ばす」人は糖尿病のチェックを受けたほうが良さそうです。泡になりやすい唾液や乾いてチクチクするような口内炎は、糖尿病の最初のサインだと言われています。高血糖あるいは特有の合併症を自覚する時点よりも、ずっと早い時期に分かるそうですから気になる方は是非、糖尿病のチェックを受けてみてください。 |
妊娠と歯周病 |
歯周病を放置したまま妊娠すると早産で低体重児出産の危険があります。
低体重児早産の危険因子としては母親の喫煙、飲酒、感染などが知られています。 最近の研究から新しい危険因子として、歯周病が注目されています。 妊娠中はホルモンの分泌が変化して酸性に傾くため、虫歯や歯周病になりやすくなります。 また、歯周病になると免疫反応として身体に悪影響を及ぼす物質が産生され、血液中に混ざり全身にまわります。その際、それが妊婦の子宮内膜に作用すると羊水に影響し、胎盤の収縮時期が早まり、早産を招くと言われています。 歯周病にかかっている妊婦は早産で体重が低い赤ちゃんを産むリスクが 7倍 も高くなっています。 歯周病と出生児との関係を立証するにはまだまだ研究が必要ですが、歯周病が感染症であり、また、あらゆる感染症は生まれてくる赤ちゃんの健康にとって危険であることはよく知られています。 したがって、妊娠を予定している人、あるいは歯周病のリスクがあると思われる人は、いろいろな検査のひとつとして、「歯周組織」の検査 を受けてみることをお勧めします。 |
最後に…
以上のように歯周病が全身の健康を損なうことがわかっています。
歯周病をしっかり治療することが、さまざまな病気を予防することになります。また治療終了後、いくら念入りに歯磨きしても限界があります。
少なくとも1年に2~3回は歯科衛生士による歯の専門的なクリーニング( PMTC )を受けてください。歯周病は予防が第一です!
私たちの言葉にぜひ耳を傾けてください。
(社)相模原市歯科医師 地域歯科保健委員会
<お問い合わせ先>
(社)相模原市歯科医師会 電話 042-756-1501